3.〜諸行無常〜 諸行無常と生物学について

今回は細胞のお話の中心にさせていただきます。その前に仏教の三法印の一つである「諸行無常」について説明させていただきます。諸行無常を漢字のままの意味では「すべてのこと(諸行)は常に変わり続けている(無常)」となります。まさしく私達の今生活しているこのときも変化し続けています。今がとても幸せでこの瞬間が止まればいいのにと思うこともあると思いますが、それは不可能です。また今はとても辛くいち早く過ぎ去ってしまってほしいと思うこともあると思いますが、早く過ぎ去ることはありえません。このことは以前にお話した縁起に由来します。私達はなるべく変化したくない、早く変化したいと思って行動しても私達の周りも人もモノも変化し移り変わるので私達の思い通りになることはないです。ここで細胞を見てみると細胞ひとつひとつが「諸行無常」として変化し続けています。私達の体は「恒常性」というものを維持しようとしつ続けています。気温が高ければ、汗を出して体温を下げ、気温が低ければ、筋肉を震わせて体温を上げます。また、食べ物を食べれば消化して栄養にしようとしますし、病気になれば免疫細胞が活動します。この「恒常性」を維持しようとする私たちの体は「諸行無常」に反しているのじゃないかと思う方もいるのではないでしょうか。確かに変化していないように見えますが、周りの環境に合わせて、私達の体の中では無数の変化をしています。汗を出すときには汗腺の細胞が活動していますし、筋肉を動かすときには筋肉の細胞が伸び縮みをして多くの力を出します。消化のときには胃や腸の細胞が、バイキンが入ってくると白血球や抗体産生細胞が動き出します。細胞一つ一つはとても小さくても、それぞれが連携して私達の体を動かしていきます。私達の体の細胞、例えばお肌の表面は一ヶ月で、白血球は一週間で、腸の表面の細胞はわずか一日で入れ替わります。昨日とパッと見は同じに見えるかもしれませんが、昨日と今日では私は少し違い人間になっているのです。それは私達は生きていく上で必要ですし、諸行無常の世界で生活する上では必須のことになるでしょう。次に家族や学校、地域で考えてみましょう。私達はそれらを構成する大切な一つの要素です。私達が細胞ひとつひとつのようなものです。私達が毎日少しづつ変わることで家族や学校、地域も少なからず変わることになるでしょう。そしてさらに大きい国や世界といった単位での変化に対応していくのです。なので、私達自身が「諸行無常」であることは受け入れなければなりませんし、そのことで私達と縁起でつながる多くの人やものごとは成り立っていくのです。